業者向けシロアリ講習 |
数多くの床下にもぐってみると、ちょっとしたことでシロアリの被害にあったり防げたりする場合が多々あることがわかります。しかし、実際に自分で設計された家屋や施工した家屋の床下にもぐってみたことがある建築関係者のかたは少ないのではないでしょうか。まして、家屋が10年、20年経ったときの床下状況を確認された方はまずおられないと思います。 ここでは、設計士、大工さんなど新築やリフォームに携わる業者の方々へぜひとも知っておいていただきたいシロアリ関連のことをまとめてみました。 |
1.シロアリの生態について正しい知識を |
シロアリ関連についてインターネットや書籍で書かれているものの中には間違った情報が載せられていることがあります。これを鵜呑みにしてシロアリ対策を施すとこんなはずではということになります。一例を以下にまとめました。 ・乾燥していればシロアリは来ない ・炭はシロアリを寄せ付けない ・木材以外は食べない ・ヒバ、ヒノキをシロアリは食べない これらはほんの一例に過ぎません。実際に業者さんと話すとかなりの人が誤解されています。乾燥させることはシロアリ対策ではありません。確かに傾向として湿気があるところにシロアリは多いですが、乾燥していてもシロアリは生息します。炭、ヒバ、ヒノキは特にシロアリは苦にしません(映像はこちら)。松材とヒノキが並んであれば松材を食べるでしょうが、ヒノキしかなければヒノキを食べます。シロアリは木材の種類や構造物を選んで食べるような高等な昆虫ではありません。とりあえずうろうろしながらえさを探して、かじってみるのです。断熱材などに使われるスチロール材はシロアリの栄養源は入っていませんがかじって進みます。 べた基礎だからシロアリの被害にあわないというのも間違いです。確かにべた基礎はシロアリにとってかなり侵入しにくいものですが、クラックや配管の穴、外からの侵入など被害にあう可能性はあります。コンクリートを溶かすなどというシロアリ業者もいますが、それはありません。 |
断熱材の中をシロアリが通った跡 (写真提供:星野伊三雄氏) |
2.木材と土の接触を避ける |
日本で大半の被害を占めるシロアリの種類はヤマトシロアリ、イエシロアリです。通常は土壌と木材に生息し、基本的には土壌とのつながりが必要な種類です。家屋に被害を与える場合、土壌を徘徊するするシロアリが何らかのきっかけ(基礎立ち上がりや束石など)で上にあがって木材に到達するというのが一般的なパターンです。このとき、上にあがるということはシロアリにとって大変リスクとコストを要する行動です。できればあがりたくないはずです。ですから、土壌に直接木材が接触しているとシロアリにとっては何の苦労もなくエサにありつけるのでかなりありがたいことになります。 基本的には基礎や束石などがあり直接木材が土に触れることはないんですが例えば玄関の上がり框の下、掘りごたつ付近などコンクリートの型枠などは土と触れていることが多いので、撤去したり土と直接触れないような工夫をするといいです。廃材なども床下に残さないようにしましょう。 配管を支えるために設置されたと思われる部材が直接土に接していたためシロアリの侵入にあってしまった例。 |
玄関ポーチの裏側。土に直接接した部分からシロアリが侵入し上がり框に到達するというパターンは非常に多い。 このようにコンクリートの上にあればシロアリにとって侵入は困難になる。 |
3.浴室の基礎高 |
浴室はシロアリの被害にあいやすい場所です。湿気や温度もさることながら構造が複雑になりがちでシロアリが侵入しやすい構造になってしまうことが原因かと思われます。また駆除する場合も床下空間がなくなっている場合がほとんどですので困難なものになります。 最近はユニットバスが普及していますのでだいぶ被害にあう確率も低くくはなってきていますがタイル張りの浴室もまだまだ多く、またタイル張りからユニットバスへの交換というリフォームも多いです。 聞いた話ですが浴室の基礎高は地域性があるようで、関東以北ではほとんど他の部屋と同じ基礎高です。中部地方では浴室の基礎高を1m程度にしている場合が多いということでした。これは施工性は悪くなるでしょうが、シロアリ対策、木材の腐食防止の面から言って有効な手段と思われます。タイル張りの浴室の場合、土間コンクリートにするため土を入れたりして土壌と土台の距離が短くなったり、土台が土と接したりしてしまったりすることによりシロアリの侵入を容易にしてしまっていることがあります。コストはかかるでしょうが、浴室の基礎高は高くしていたほうが良いです。 |
4.配管周りや基礎外断熱 |
最近の家屋はほとんどがべた基礎でシロアリは侵入困難です。ただし、クラックやコンクリートの打ち継ぎ部分、配管を通すためのコア抜き箇所などは侵入される可能性があるので、そういう箇所にはその部分にのみ薬剤を使用するとか定期的に点検して異常の有無を確認することが必要です。 基礎外断熱の場合、断熱材の中を通ってシロアリが侵入するので、定期的に点検したとしても発見が困難であり、気づいたときにはかなり被害にあっている場合が多いです。対策としては基礎外断熱を止めるのがベストです。どうしてもおこなう場合は、ある程度のリスクを覚悟し、断熱材下部に特殊な薬剤を施工する、もしくは断熱材上部を5cm〜10cm程度カットし、万が一シロアリが侵入しても土台に到達するときにシロアリを露出させるなどの方法が現状ではベターかと思われます。ただし、基礎断熱に対するシロアリの動きはまだまだ分かっていない部分が多く、これからどういった状況になるのか我々シロアリ業者でも予想が難しいというのが正直なところです。 |
基礎立ち上がりに開けられたコアから侵入されたところ。隙間にはモルタルがつめられていたがその程度ならば侵入される。また配管にまかれた断熱材も侵入経路になりうる。 |
5.絶対に被害にあわないという対策はないということ |
どれだけの対策をほどこしても絶対にシロアリの被害にあわないということはいえません。これはシロアリを見ているシロアリ業者であれば誰でも思うことであり、現場で遭遇するシロアリの動きには驚かされることが非常に多いからです。建物の構造が変化すれば、その通りにシロアリが変化した動きを見せます。これは人とシロアリの知恵比べになりますが、残念ながら私は負けると思っています。良くて引き分けです。多額の費用を使ってシロアリ対策を行い、シロアリの被害にあわなかったとしても、もともとシロアリがいないところでそういうことをやったのであれば何の意味もなく、地下でシロアリが笑ってそうです。 であれば、被害にあったとしても対処できる、対処しやすい構造にしておくのが賢いシロアリ対策かもしれません。その場合は少なくとも、床下はどの部屋も点検可能で多少の作業は出来るようにしておく必要があります。また基礎外断熱のようにシロアリの動きが見えない構造も注意が必要です。それから、玄関は構造的に複雑になりがちですので、土壌中のシロアリの動きをイメージしながら侵入されそうな隙間などに注意します。あとは定期的に自分なり業者なりに点検してもらいさえすれば、なんら問題はありません。これだけでもかなり優秀なシロアリ対策です。大量の薬剤やシステムに頼ることだけがシロアリ対策ではありません。 |
これはとある居酒屋さんのショーウィンドウですが・・・ その中をシロアリがうろうろと。一升瓶の下をシロアリがはうなど誰が予想できようか。 |