地震とシロアリ

 シロアリに食べられると家が潰れる?
 「床下にシロアリが付いています。今すぐ工事しないと家が潰れますよ」というように、住人を不安であおりたてて工事契約を結んでしまう悪質な業者がいます。一般の人が建築、シロアリのことをよく知らないことをいいことに、あることないこと並び立てて強引に契約を迫ってくるそうです。
 実際、シロアリのことをよく知らず、シロアリが家を食べてしまう大害虫というような知識しか持ち合わせていなかった場合、業者に「家が潰れる」などと言われると確かに不安になってしまいます。ましてや宮城県は地震の多い地域で、「地震がきたら潰れますよ」なんて言われたらひとたまりもありません。おそらく不必要な工事を契約してしまうことでしょう。

 はっきり言ってシロアリに食べられたからといって家は潰れません。シロアリだけで家が潰れるくらいの被害を与えるには何十年とか100年とかかかると思います。現在の住宅の寿命が30年くらいを目安にしているようなので(短いなぁ)シロアリが家をつぶす前に寿命がきます。ましてや家が潰れるほどの被害がでているのに、気が付かないで何も対応しないということはあり得ないでしょう。ですので、シロアリがいるから家が潰れるというような状況はまずないです。

 ではシロアリの被害にあっていて、大きな地震が来た場合はどうでしょうか。このことについてこのページでご紹介します。


 1.地震後に行なわれる倒壊家屋の調査
 大きな地震の後、被災地を訪れ、倒壊した家屋にシロアリの被害があったかどうかの調査がよく行なわれます。阪神大震災の被災地でも何件か調査が行なわれました。これによると、倒壊した家屋の方が倒壊しなかった家屋よりもシロアリの被害が大きかったというような調査結果が報告されています。要は、シロアリの被害があったために倒壊しやすかったということです。

 こういう調査でいつも疑問に思うことがあります。それは
倒壊した家屋の築年数はどれくらいだったのかということです。築年数が経っていればいるほど耐震性が落ちるのは明らかですし(劣化するので)、ましてや昔の家の耐震性は現在の家と比べ物になりません。シロアリの害についても築年数が経っていればいるほど被害にあっている確立は高くなっているはずです。ですので、家屋が倒壊した原因が家屋の劣化によるものなのかシロアリの害によるものなのかはっきりしません。

 こういう調査は非常に困難です。現場は大混乱ですし、家の構造もまちまちで、その家の建っている地盤すらも一様ではありません。その中で調査を行なって定量的な結果を出すことはまず不可能だと思います。ですからこれらの調査結果を参考にするのは悪くないですが、一般の人の
不安をあおるような使い方をするのはいかがなものかと思います。
阪神大震災後、とある調査結果では、シロアリもしくは木材腐朽菌による害が認められた家屋の倒壊率は80%、害が認められなかった家屋の倒壊率は40%だったそうです。
これだけでの説明では倒壊した原因がシロアリの害にあっていたからだとはいいきれないような・・・。

築年数はいくらだったの?
シロアリの被害部分はどこ?
その地域の地盤は?
木材は年数がたてば腐りますが?
シロアリの種類は?
倒壊した家屋の耐震性は?
etc…


  2.おもしろ実験データ(参考程度に)
 平成16年5月、「みやぎ木造住宅耐震改修施工技術者養成講習」に参加したとき、建築研究所の方が面白い話をしてくれました。静岡県にある築43年の市営住宅で、10棟中5棟がシロアリに食害されていたそうです。これを意図的に引っ張って倒壊させ、そのときの加力を比べようというものです。市営住宅の構造は10棟とも同じ、木造平屋36uです。この実験方法で得られる結果はだいたい定量的かなと思います。
 
 誰でもシロアリに食害されていたほうが少ない力で倒れるだろうと予想されると思いますが、結果はほとんど同じ力で倒壊したということです。家屋がシロアリに食害されていようとなかろうとたいして変わらなかったようです。

 シロアリの食害なんてこんなもんかなという気はします。しかしこの実験ですらもまったく定量的というわけではなくて、「地震は一方向に揺れない」、「シロアリの食害箇所、被害の程度は家屋で違うはず」などの違いはあります。

 「まぁでもシロアリに食べられてもそんなに影響ないならシロアリ対策は必要ないかな」とお思いになるのはまだちょっと早いです。次項で家の耐震性についてご説明します。
 
建築研究所のホームページ

ちなみに食害していたいシロアリは「ヤマトシロアリ」ということでした。


  3.家屋の耐震性
 家屋の耐震性を詳しく話すと1冊の本ができてしまうのでここではごく簡単にご説明します。また、木造在来工法の耐震性の説明をしますので他の工法の家屋の方は参考程度にお読みください。

 木造住宅の耐震性の決め手は「
」です。一般に家屋の剛性を高めるための壁を耐力壁といいます。仮に家屋を上から見て真四角の家があったとします。この家には窓がなく広さも10畳程度だとすると、この家は耐震性抜群です。

 ではなぜ壁が大事なのかというと、右の上の図を見てください。このような家屋の構造で横揺れの地震が起きたとすると、あっという間に倒壊してしまうことでしょう。この家の耐力壁は「0」です。

 次にその下の図を見てください。柱と柱の間に斜めにつっかえ棒を入れるとたちまち耐力壁の出来上がりです。これですと上図の構造よりはるかに耐震性が向上します。

 家屋の耐震性を見るのには、この耐力壁がどのくらいあるかがポイントになります。さらに家屋のどの方向(東西南北)にもバランスよく耐力壁が配置されているのが理想的です。

 このつっかえ棒(筋交い)は昔から存在する家屋の耐力を上げるための技術です。どの木造住宅にも取り付けられていますが、大きな地震が来た際、まず始めに壊れるのがこの筋交いです。大きな揺れに耐えられず、外れてしまうのです。そうすると耐力が0になってしまいますから家屋が倒壊してしまうわけです。

 そこで現在の建築基準法では筋交いを固定するときには金具を使用することが義務付けられています。昔は「かすがい」とか釘でのみ固定されていたので外れやすかったのです。この建築基準法が施行されたのが昭和56年(1981年)ですので、これ以前に建てられた方の家屋は、筋交いが金具で固定されていない可能性があるので、耐震診断を受けることをお勧めします。

筋交いの無い壁
柱4本の家を横から見るとこんな感じ。これで横揺れの地震がおきたらひとたまりもない。


筋交いのある壁
赤いつっかえ棒を入れると耐力壁の出来上がり。これを「筋交い」といいます。最近はつっかえ棒の変わりに板を貼り付ける場合もあります。
板のほうが耐力があるんですけど通気性とかの問題も出てきます。


  4.シロアリの食害にあってはいけないところ
 家屋の耐震性の説明をさせていただきました。家屋の耐震性で大事なのは耐力壁です。ということはシロアリの食害にあってはならないところはおのずと見えてきます。

 家屋の耐震性に影響を与えるシロアリの食害箇所は、
耐力壁を構成する部材、ということになります。耐力壁を構成する部材は、土台、柱、筋交い(もしくは合板)です。これらがシロアリの食害にあうと家屋の耐震性が下がります。逆に考えると、それ以外の箇所がシロアリの食害にあっていたとしても家屋の耐震性にはたいして影響しないということです。よくシロアリの被害写真で束や大引き、根太といった部材がシロアリに激しく食害されているのを見かけますが、そんなので不安になる必要はありません。むしろその写真で不安をあおっているのは勉強不足かただ単に契約したいだけの業者さんです。

 耐震改修というのがあります。それではあまり重要視されていないシロアリですが実は上記の部分に関して大事になってきます。もし、耐震改修を行なうときにはなんらかのシロアリ対策も講じておく方がいいと思います。
リフォームとシロアリのページも参考になります。

シロアリの食害を防ぐべき場所


リフォームとシロアリ


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