シロアリイラスト なぜ家を食べるのか?
 シロアリが家を食べるということだけを考えるとそれは害虫でしかありません。そうなるとシロアリなんて人間にとっては必要ない、むしろおじゃま虫的扱いを受け自然界からいなくなってほしいというような考えが進んでしまいます。このページではなぜシロアリが家を食べるのかを説明しながらシロアリの役割をご紹介します。
1.シロアリの食べ物
 シロアリの食べ物は木材(家)と思っている方も多いかもしれませんがそれだけではありません。シロアリは木材に含まれるセルロースと呼ばれる繊維を食べて栄養を取っています。なのでこのセルロースが含まれているものは考え方としてはシロアリのエサです。例えば、新聞紙、衣類、畳、綿などがそうで、中には草植物や生きた植物すらも食べるシロアリもいます。ちなみに、世界のシロアリの中にはキノコシロアリと呼ばれる種がいて、自らキノコを栽培しそれを食べるシロアリもいます。 シロアリとキノコのイラスト
2.セルロースとは何?
 シロアリの栄養源であるセルロースは、植物の骨格を成す細胞壁の物質です。細胞壁はその他、ヘミセルロースリグニンなどからできています。細胞壁を鉄筋コンクリートに例えると、セルロースが鉄筋、リグニンがコンクリートで、鉄筋を止める針金がヘミセルロースと言えます。セルロースの成分はブドウ糖です。でんぷんの成分もブドウ糖なのでシロアリ以外の動物の栄養源にもなりそうですがそうはいきません。植物も食べられないように考えました。セルロースはブドウ糖の結合方法をでんぷんとは異なる形にしたため、人間をはじめ動物にはセルロースを消化することができないようにしたのです。まさに鉄筋コンクリート。人がこれを消化できるようになったら食料には困らないことでしょう。なにせ、地球上で最も多く存在する炭水化物なのですから。 細胞壁の写真
3.セルロースを消化できる生物
 セルロースは非常に消化しにくい物質です。セルロースを分解する酵素(セルラーゼ)を自ら持つ生物はバクテリア、菌類、微生物、藻類、地衣類、高等植物、ほんのわずかな種の軟体動物、甲殻類、昆虫らです。さらに細胞壁の成分であるリグニンを分解できる生物がごくわずかでキノコ類と一部のバクテリアのみです。このことがセルロース利用の妨げになっています。 カタツムリイラスト
カタツムリはセルロースを
分解することができる。
4.シロアリはどうやってセルロースを利用しているか?
 シロアリは腸内にセルロースを分解できる微生物(原生動物)を住まわせ、栄養を採取するのに利用しています。いわば微生物と共生しています。生きた草木を食べ物としている生き物の多くは細胞壁(セルロース)ではなくて、細胞の原形質(蛋白質、脂質)を栄養としています。牛や馬はシロアリと同じように微生物と共生して、原形質とセルロースの両方から栄養を取っています。 セルロースイラスト
クロアリはセルロースを利用できないので肉食動物。シロアリは草食動物といったところ。
5.シロアリは細胞壁の分解マシーン
 シロアリの多くは枯れた木を食べます。枯木のほうが生きた草木よりもセルロースの量が多いからかもしれません。シロアリは枯木の重要な分解者です。シロアリは木の中に土を運ぶのでバクテリアが木を分解する仕事も手伝っていると思います。さらにシロアリ自体は他の動物にとって重要な栄養源となっています。単位あたりのたんぱく質の量は牛肉を上回っているそうです。ですので、シロアリはほとんどの動物が利用することのできない枯木等を、利用可能な動物性たんぱく質に変換する高性能リサイクルマシーンと呼ぶことができるのです。こういうことをシロアリ屋が言うと語弊があるかもしれませんが、シロアリが増えれば増えるほど自然は豊かになるのではないかと思います。
木とシロアリの関係
6.シロアリはなぜ家を食べるのか?
 西表島で森林を伐採して農耕地にしたところ、生き残ったわずかなシロアリが生きた作物を食べ始めたそうです。人にしてみれば害虫、シロアリからすれば食べ物がなくなったので仕方なくセルロースの少ない生葉を食べるという状況です。宅地にしてもおそらく似たようなもので、今まであった枯れ木がなくなり、代わりに木材(家)があればそれを分解しようとするのは、シロアリ自身が与えられた自分の仕事を全うしようとしているだけに過ぎません。
 ですが宅地開発に反対するものではなく、かといってシロアリを害虫扱いするする必要もないと思います。シロアリの役割を知って、シロアリの生態にあった対策を施しておけば十分です。
 日本でのシロアリ被害の総額は3000億円とも言われています。ですが、見知らぬところでシロアリが私たちにもたらしている利益といったら計り知れない、天文学的な数字になると思いますよ。おわり。
シロアリのアップ
シロアリは害虫じゃない。利益を生み出す高性能リサイクルマシーン。


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